対象地区は有数の松茸産地であり、用地買収に伴う松茸に対する補償について、
を行い、松茸補償の適否、補償の範囲、補償方法等について検討および分析し、公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月)等関連法令等の理念に則り、当該事業の円滑な遂行と適正な損失の補償を確保するための参考資料である。
ここでは補償の適否、課題および松茸補償の調査の考え方について紹介します。
対象地区は、松茸の産地として知名度のある山林である。ただし、この山林から均等に松茸が生産される事はない。
したがって、調査時点において各権利者毎に直接松茸生産量等の調査を実施する事は、補償に対する期待等の混乱を生ずる事が懸念されると考えられるため、役場を中心に公的な機関に資料の収集を実施さぜるを得ない。また、対象地区の山林の権利者は多く、補償金の個別払いを原則に照合した場合、松茸が均等に生産されない事からすれば、妥当な補償、平等な補償の追求に関し大きな課題を有している。
赤松の生育は、立地環境に対応して変化しやすく、人の手が加わるほど生育状態は好ましい。そして、松茸生産も人手が加わった赤松林が良好である。赤松と松茸の性質からすれば、共に貧弱な土壌条件、いわば他の生物の少ない環境条件を好む性質を有している。
松茸の主な生産地区は、中国、近畿、中部の一部に集中している。
| 広島 | 161.4 | 岡山 | 129.9 | 京都 | 38.0 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長野 | 28.8 | 兵庫 | 24.9 | 岐阜 | 22.0 |
湿度については、赤松が成林する範囲ではどこにでも生産可能で、降雨量については、年間2,400mm以下の地域に山地が分布している。雨が多いほど子実体発生量は増加するが、シロが出来るためには乾燥気味の条件が好ましい。赤松の樹齢と松茸の生産との関係性は、林齢30年頃から増加し、40~45年がピークで、70年を超えると松茸の生産はほとんどなくなる。立地密度については、2,000本/ha前後が好ましい。
赤松林の存在は松茸生産にとって必要条件ではあるものの、充分条件とはならない。すなわち、赤松林が存在しなければ松茸生産は困難であるが、赤松林が存在するからといって松茸が生産されるものとは限らない。
赤松と松茸の生産は、両方とも貧弱な土壌条件、いわば他の生物の少ない環境条件を好み、さらに松茸は尾根の松林や表土層のほとんどない赤松林に好んで生息する。
松茸は、天然の赤松林に勝手に出てくるもので、生産の多い地域は狭く、ある山では出るが隣の山では少ないといったように松茸が出る地域は一様に分布しない。
ひとつの山の中でも出る場所と出ない場所があり、場所によって松茸山の林相は違っている。さらに近年では松茸価格は異常に高額でもある事から、松茸の出るポイントを知る者は、その山に権利を有する者個人に限定され、またそれが秘密ともされ特定の縄張りがされ、地域における松茸の生産量の把握は困難であり、特異な存在ともなっている。松茸が出る9月、10月の2ヵ月間は権利を有する者以外の第三者の山への立入りは極端に敬遠され、争いの源ともなりかねない。
松茸の採取形態は、以下のとおりです。
松茸採取の係わり方は、村有林入札山からだけ採取する者、あるいは村有林鑑札山と両方等種々の係わり方をしており、9月、10月の2ヵ月間で500~600万円の売上を計上する者も少なくない。
入札や鑑札料は必要なものの、それ以外ほとんど経費のかからない松茸は、まさに天の恵みであり、それだけにこの2ヵ月間は活気に満ちた状態となる。
松茸採取の9月、10月の2ヵ月間は、入札山の落札に始まり自らの権利地に縄を張り、村は松茸で異様な雰囲気になると言っても過言ではない状況となる。よそ者が仮りに迷って山に入ったとしてもそれは大問題となる。
村有林、区有林入札山の入札は、例年ほぼ同じ者が落札する。それは、松茸のシロ(松茸が生えるポイント)が毎年同じポイントであっても、広い松林では熟知した者にしか採取が難しい事と、例年落札している者からすれば一旦他の者に落札されると、松茸のシロが他の者に知られてしまうからである。
松茸の採取は毎日行うものではなく、時期を見計ってそのポイントへ採取に行くもので、毎年同じ場所に松茸が出てくる事からすれば、相当山の奥であっても朝の2時間程度の入山で松茸採取は可能である。松茸の出ている場所を求めて山中を歩き回って採取するものではない。
赤松林が存在しない所には松茸は出てこない。そして、赤松林が存在しても松茸は必ずしも出てくるとは限らない。そうすると立木調査の結果から、その土地が松茸補償を必要とするかどうかの可能性判断が出来るはずである。
立木調査の結果により、松茸発生に関し以下の如く区分した。
| 可能性判断 | 備考 |
|---|---|
| ○ | 赤松林を形成し、地形日照から松茸発生の可能性高い土地。縄張りを形成した跡がある土地。 |
| △ | 部分的には赤松林を形成し、松茸発生の可能性を有する土地。 |
| × | 赤松のない土地、または赤松があっても赤松林とはなっておらず、松茸は発生しないと考えられる土地。 |
| 事例内容 | 出典 |
|---|---|
| 長野県の特産物補償 | 用地補償事例集Ⅰ (東京出版) |
| 広域営農団地農道整備事業(大規模農道)における 特産物補償事例(昭和58年) |
用地補償事例集 (行政) |
| 天恵物補償 | 東北用対連№11 |
| 特産物補償について | 東北用対連№40 |
松茸に関する補償先例は、
などからして少ない。
ただし、補償先例が少ないとはいえ、補償の実態を否定するものではない。
松茸(特産物)に対する補償は、松茸の収穫に対し平年の純収益を資本還元して求める事となっているが、純収益の把握が困難である。すなわち、用地を買収する山林から採取される量および価格、さらに経営費に関して公開を極端に嫌う傾向にあり、秘密な面が多いため、適正な補償額の確定が難しい。
さらに、松茸の生産の特性として赤松林の存在がなければ松茸は採取出来ないものの、赤松が存在していたとしても必ずしも松茸の採取が可能というものでない。また、松林の規模に比例した量が生産されるものではなく、シロの存在に大きく依存している。
以上の事から補償額を確定するため、
にして補償額を確定する事は、比較的小規模な単位で区画されている地区は、各地権者の均衡という観点から妥当性に欠けるものと判断される。
松茸に対する補償の範囲について、用地買収内を対象とする事が原則と考えられるものの、事業の施行時にあっては用地買収地内以外の土地への立入りも必要となるものと考えられるが、特に9月、10月の採取時期にあっては近隣地区との混乱および事業の施行に伴う地形変化等、近隣の松茸の発生への影響も懸念される。
これら事業の施行に伴う影響について、事業損失補償の必要性等用地買収以降の課題も残されている。
補償実施にあたり、その方法として、
が考えられる。
松茸の特性から、買収する各筆の土地から松茸がどれだけ生産されているかの把握は困難なため、用地買収時点で土地の権利者等から売上伝票等を添付しての請求があったものを対象とする。
対象者からの請求は、必ずしも対象地区の用地買収予定地から採取した松茸だけとは限らない。したがって、その対象者が買収予定地以外の入札山、鑑札山その他の個人所有松茸山を有しているか等の検証を行い、買収予定地からの松茸に係る純収益を抽出し、補償額を確定する必要がある。
この方法の場合は、用地買収時点に個別に補償額の算定のための作業が必要にはなるが、実態に則した適正な補償額の算定が可能であり、松茸の生産されない土地に対し、松茸補償がされる事を避け、平等な補償額の実施と判断される。
以上の観点から赤松に着目し、地域全体の松茸の生産性を調査し、松茸補償を模索する事が必要である。