生き物を対象とする補償のうち、乳牛の移転に関する補償事例を紹介しますが、
については、補償可能か否か種々の意見が発生した事項であり、今後も検討を加えていかなければならないと同時に資料収集を続けていかなければならないと考えています。
対象が乳牛という生き物を飼育する酪農施設である事から移転を考えるにあたって、酪農経営上の問題およびその特殊性の故に種々の問題点が発生する本案件に付き、留意した点および補償方法等を列記する。
牛舎施設を建設する場合、臭気・汚物等に関連して近隣の同意等が必要となり、営業場所が限定される業種であり、営業廃止補償を検討する必要がある。
酪農施設のように生き物を扱っている場合、一般の経営と比べて厳しく立地条件の制約を受ける事が多く、ひとつは酪農に必要な自然的生態的条件の他に、販売のための経営上の条件(市場との距離)に加えて、昨今特に問題となっている近隣住民との間で、住環境の保持のためのトラブル(民事上の問題)が発生する事が予測され、移転先選定が困難な場合が多い。
酪農施設の場合、臭気・汚物等に関して、汚物処理等の既成・新たなる牛舎建設については、近隣周辺住民の同意が必要となる。
しかしながら、営業廃止については、真にやむをえない場合を除き、職業の自由を奪う移転工法となり、補償額の経済性追求重視による採用は妥当な移転工法とは言い難い面もある。
牛は生き物であり、現代の酪農業の特性から、対象の施設では放牧は行われず、牛の導入後対象酪農家で飼育されている期間、廃牛に至るまで一生つながれたままで生活する事となり、移転にあたっては、大きなストレスを受けるとともに足腰は非常に弱っている。
その上、営業主は搾乳等毎日の作業を通常通り行う必要があり、牛の移動作業に携わる事の可能な時間帯は、朝夕搾乳および給餌時間外の午前9時30分から午後4時まで6時間程度であるが、昼食および早朝から夜間に至る日々の重作業を考慮すれば、1日の間牛の移動に携わる事の出来る時間は4時間が限度と考えられ、1日当たりの牛の運搬はせいぜい12~15頭程度であり、牛を全部移動するには数日間を要する事となる。
したがって牛の飼育作業は、既存と移転先の両方に及ぶため、営業主に非常な負担となるとともに施設も両方必要となる。移転方法として、
移転先地において、あらかじめ施設等を建設しておき、建設完了後速やかに飼育牛を運搬し、経営を継続する方法である。
施設等は、牛が生き物であり、毎日の作業を規則正しく行い、搾乳作業、給餌作業についても一日たりとも欠かす事の出来ない作業であるため、牛が生活するのに必要な基本的な施設(搾・食・排)を新設する必要がある。
この場合、乳量の減少および牛の骨折等に対する対応が必要である。
現在飼育している牛を一旦全て処分し、施設の建設が完了した後に営業を再開する。
この場合、施設等の移転完了後に、はらみ牛を一時導入する事は、導入先の問題や子牛から5産牛までをバランス良く飼育し、大きな変動のない安定した高品質のミルクの生産といった営業リズムが狂い、資金面および労働面からも無理があるので少しずつ現在の規模に回復させる必要がある。
乳牛を移転させ新しい環境で営業再開する方法を採用した場合、乳牛は環境の変化等によって種々のストレスを受け、乳量減少等の損失の発生が考えられる。
本来の性質として牛は警戒心が強く、神経が過敏なため環境の変化によってストレスを生じ易い、ましては搾乳経営では大部分の牛が妊娠中である。
妊娠中の母体そのものの健康状態は、個体差が大きいものの不安定な事は牛も人間も変わりはない。
移転の原因が公共事業とはいうものの、移転行為は本人が行うものであり、適切な方法で行ったとしても乳量が減少するかどうかの予測の困難性等から補償とは馴染みにくい。
移転に伴う運搬、環境変化に伴う骨折、乳房炎等の事故に対しては、通常の経営時においても、はらみ牛等の導入時の事故を担保する目的から保険をかけるのが一般的である。
この移転にあたっても、その他通常生ずる損失として保険掛金相当を補償の対象とすべきものと考え、
を対象とし、補償額(損害保険掛金相当)を算定するものとした。