当該案件は、道路建設に伴い支障となるモーテルの建物等営業施設の調査および補償額の算定を行ったものです。
本物件は、以前に一度調査がなされたものでありますが、交渉が長引き新たに設備関係が増設されたため、価格時点の変更による時点修正のみでは対応しきれなくなった事により、再度立入調査を行い、補償額の算定を行うとともに、一部用地交渉のお手伝いをさせて頂いたものであります。
本物件は、意匠的には風変わりな建物ではありますが、特に他の一般的な支障物件の調査および積算と著しく異なるものではありませんが、事業に非協力的(むしろ反対)な被補償者の施設に係るものという意味で非常に難しかったものです。
本物件の調査および積算業務に携わって特に問題となった事項である、
について、ポイントを絞ってご紹介します。
所在地 ○○県○○市○○町○○番地
| モーテル | : | 鉄骨造カラー瓦棒葺2階建(客室10室) | |
|---|---|---|---|
| 1階 | 417.64m2 | ||
| 2階 | 383.62m2 | ||
| 管理室 | : | 木造カラー瓦棒葺平家建 | 13.28m2 |
| 危険物庫 | : | コンクリートブロック造大波スレート葺平家建 | 10.89m2 |
本モーテルは、丘陵地に建設され、隣接する地域には、ゴルフ場やレストラン等があり、市街地と市街地を結ぶ主要道路からわずかばかりに入り込んだ所に位置し、その道路を通行する車両にとって利用しやすい環境にあり、モーテルとしての立地条件は良好と言える。
いわば、本モーテルを移転するに要する補償額の全てを算定したものです。
立入調査は、営業の特殊性によりいつでも可能というわけにはいかず、被補償者と協議打合せの結果、モーテルの利用客の最も少ない朝8時から10時までの2時間で完了せよとの事でありました。800m2からなる鉄骨造の建物施設を2時間という短期間で調査するのは、いかに経験豊富な職員でも大変な作業と言えます。
あらかじめ収集しておいた資料を分析し、それぞれの分担範囲を明確にし、8人の職員が一度に現場に入り迅速に作業を行い、そして補足作業を後日2~3名で行うという作業計画を立てました。
現場に立ち入るまでの準備が大切で、用意した図面には必要に応じ着色し、作業効率を高め時間短縮に努めました。また、調査資料の整理等にあたっては、調査の際使用したスチールカメラ、ビデオテープが役に立ちました。
営業補償額を算定するのは、本来適切な原始資料の収集から始まるものですが、本案件の場合、被補償者が事業に反対の立場をとっている事や営業の実態を知られたくないという事から算定の基礎となる資料が全く得られなかったもので、口頭にて、売上高および従業員の給料等を聞かされただけでありました。
移転工法の検討にあたっては、補償の経済性については当然の事であるが、被補償者の今後の営業継続の可能性についても十分な配慮が必要であると考えます。
起業者からは、モーテル建設のための、移転先地確保が非常に難しい社会的状況である事から、営業廃止を前提として除却工法を検討すべきであるという事でしたが、被補償者の意思を無視し、移転先の確保が難しいという起業者の理由のみによって、営業廃止補償を採用する事は、損失補償基準第43条(営業廃止の補償)「通常営業の継続が不能となると認められる時は…」には該当しないと判断した。
したがって、営業廃止を前提とする除却工法は採用すべきではないと考えた。「通常営業の継続が不能となる」とは、従来の営業場所から移転する事により営業自体営む事が出来なくなる場合と、営業は出来るがそれを継続していく事が著しく困難になる場合の両者を含むものである。
損失補償基準細則第26条によれば、
再建工法および解体移築工法の2工法に付き、経済比較を行ったものであります。
| 再建工法 | 解体移築工法 | |
|---|---|---|
| 建物 | 99,976 | 80,344 |
| 機械工作物 | 40,936 | 33,307 |
| 動産移転料 | 1,542 | 2,313 |
| 仮住居費用 | 0 | 1,200 |
| 立竹木補償 | 1,174 | 1,174 |
| 移転雑費 | 2,076 | 2,076 |
| 営業補償 | 604 | 6,047 |
| 合 計 | 146,308 | 126,461 |
| 収益減の補償 | 562,500円/月 |
|---|---|
| 得意喪失の補償 | 0円/月 |
| 固定的経費の補償 | 5,666円/月 |
| 従業員の休業補償 | 641,420円/月 |
営業補償の算定にあたっては、決算報告書等の適切な資料の収集が不可能であったため、実態調査および同業者の営業実態の調査並びに中小企業の経済指標等の資料に基づき営業実態を推測し、補償額の算定を行ったものであります。
営業補償の業務を遂行するのに最も大切な事は、必要かつ充分な原始資料の収集であります。
もし、これが質および量とも充分でない場合、例えばモーテルについては、
等、利用客と関連して消費されるものを調査分析する事により、ある精度を持って、実状の把握が可能なものとなる。こうした調査を併用し、調査資料の分析までを行う事により説得力のある報告書となる事は当然である。
しかしながら、1週間の利用客の実態調査をするだけでも、仮に3交替で1週間これを行ったとすれば深夜作業という事も考慮すれば、かなりの手間が必要となり、そこまで現場の実態調査に手間はかけられないというのが実状でありました。
幸いにも当該物件は、被補償者と全ての問題を解決しました。
売上高の推定は、被補償者からの聴取、利用状況の調査、経営指標から行った。
45,000千円/年
| 宿泊7,000円/室×10室×0.8回転 | =56,000円/日 |
|---|---|
| 休憩3,000円/室×10室×2.0回転 | =60,000円/日 |
| テレビ・ビール等 約10% | 14,000円/日 |
| 合計 | 130,000円/日 |
47,450千円/年
ホテル業(観光地以外20室以下)、客室1室当たり売上高3,216千円
32,160千円/年
中小企業の経営指標に記載されているホテル業は、宿泊による売上げが大部分と推定され、モーテルのような休憩による売上げは発生しない事から売上高は低くなるものと考えられる。
本モーテルの売上高は、上記の調査結果を総合勘案し、下記のとおり認定した。
認定売上高 45,000千円/年
営業利益の推定は、同業者の営業実態調査、経営指標から行った。
| 東海市 10室 |
名古屋市 15室 |
小牧市 10室 |
|
|---|---|---|---|
| 一室当たり売上高(年間) | 5,100 | 7,200 | 3,800 |
| 営業利益 | 15% | 20% | 15% |
売上高対営業利益率 11.5%
一般のホテルに比較し、モーテルの場合、人件費等の経費が少ないと考えられる。
したがって、営業利益率を15%とし、
認定営業利益 6,750千円/年
営業を一定期間休業し再び営業を再開し、売上げが従前に比較して減少した時、従前通りに回復するまでの相当期間に対応する収益減を補償するものである。
モーテルの場合、その特殊性から従前通りの収益が営業再開後すみやかに得られると判断され、得意喪失の補償は計上しなかったもので、この点については、関係者全てほぼ同一の見解で問題ありませんでした。
一般的に、長期借入金、法定福利費、保険料および減価償却費等も固定的経費として認定出来るが、適切な資料の収集が出来なかったため、固定的経費の補償は、土地の固定資産税と都市計画税のみを認定額とした。
| 固定資産税 | 56,000円 |
|---|---|
| 都市計画税 | 12,000円 |
| 認定固定的経費 | 68,000円 |
| 従業員 | 3名 |
|---|---|
| 従業員給料 | 9,621,300円 |
| 認定従業員の休業補償 | 9,621,300円×80% =7,697,040円 |
本案件の場合、弊社が立入調査を行ってから、補償の契約に至るまで3ヵ年を要しました。
その間、時点修正は当然の事ながら、用地交渉の進捗状況に応じて移転費等の見直しを繰り返しつつ、補償の契約に至ったものであります。立入調査から用地交渉に至るまでお手伝いさせて頂き、起業者の用地御担当の苦労がいかに多いかを痛感した次第です。
最後に、補償コンサル業に従事する者として起業者の方へのお願いですが、被補償者は、
この3項目について、最も関心が強いものです。
営業補償の調査は、企業の経営成績や財政状態の細部に至るまでの調査を行うものですから、被補償者は前記の3項目に必ず触れてきます。勿論、私たちは被補償者と接触し、本人の「建て前」を直接聞く機会は当然の事、「本音」も時折聞く立場にあり、世間話を含めて、いわば用地交渉の第一歩が私たちの任務であると考えています。
営業補償関連の種々の原始資料、書類等は必ず起業者の担当者も御同行の上、その必要性を理解して頂くようお願いする次第です。