採石山

概要

採石山の補償事例として、某トンネル建設事業に伴い某採石所の採石山が支障となったものである。推定埋蔵量300万トン、ベンチカット方式により良質の採石(粘板岩)を年間82,000トン生産し、主に道路用骨材、コンクリート用骨材に使用されている。

保有設備としては、採掘機械のクローラドリル、運搬機械の36トンダンプ、90トンホイルローダおよび採石プラントを保有している。事業によりトンネル坑口部にあたる用地を取得するとともに、採石採取業は発破作業を伴う事から、建設されるトンネル施設の安全の面で、一定の保安距離を確保する必要があり、採石採取行為の制限を要し、権利等の制限(制限鉱量60万トン)に係る補償が発生したものである。採石権等に係る補償は、損失補償基準第二章第三節第二一条(鉱業権・租鉱権又は採石権の消滅に係る補償)の規定および細則第8、ホスコルド公式によって採石権の評価がなされ、採石権の補償と言えばホスコルド公式をあてはめさえすれば採石権の評価、すなわち採石権等の制限に係る補償が完了したと考えられがちですが、採石事業者の営業の継続を前提とした場合、その他経費増および作業効率の低下等著しい損失の発生が課題となったものである。

その他経費増の補償・作業効率低下に対する補償

採石山の鉱区制限に伴う補償を行う場合、権利等に係る補償として、前述の採石権等の評価はもとより、鉱区制限すなわち採石採取行為自体の制約を伴う事から、権利制限以後の営業に関して、経費の増大、作業効率低下等の損失が予測される。これらの損失は損失額把握の困難性、損失の具体性等の立証等から、補償での対応が非常に難しい面がある。

経費増および作業効率低下について、その内容を要約すると、

鉱区が制限され操業が短縮化する事による損失

  • プラント等設備の有休化
  • 従業員の働ける期間が短縮する事による雇用問題の発生

鉱区制限による作業効率低下および経費増

採掘制限による作業効率低下および経費増

  • 発破効率低下
  • 残壁法面保護の施工経費増
  • 表土処分経費増

運搬工程における損失

  • 採石運搬車の走行距離延長

破砕選別工程


出荷工程

鉱区隣接地の取得または採石権設定の可能性を逸失

採石採取後の跡地利用の障害

これらについての損失は、先例も皆無に等しく、必ずしも補償とは馴染まない面、補償とは別の問題も含んでいる。操業が短縮化する事による損失については、操業期間短縮によるプラント等の償却資産に未償却相当の損失が発生するとの考え方があるが、設備等の償却は起業費として会計処理上、一時に経費として処理せず、相当の期間に渡って減価償却なる方法で費用の配分を行っている。採石権等の評価においてその評価は、起業費としての資本投下回収分と収益の和を、制限期間で還元する事により、将来上げ得る収益相当が採石権の価格とする事からすれば、操業期間が短縮したとしても、施設の有休化に伴う損失は発生しないものと考えられる。

次に、従業員の雇用問題について、企業は永久存続を前提として存在しているものの、有限の資源の採取を業とする採石業では、トンネルによる制限がないとしても、やがては採取し尽くしてしまう事は採石業の宿命と言える。したがって、操業期間短縮による従業員の雇用問題は著しい損失の発生にはあたらないと考える。

作業効率低下および経費増の損失

採掘工程
鉱区が制限される事により、発破作業等トンネルからの保安距離に充分な神経を払う必要が生じるが、これはトンネル事業がなかったとしても隣地境界に対して、細心の注意を払って作業を行わなければならないのは当然の義務であり、新たに生ずる作業効率低下とは言えない。
残壁法面保護対策は、本来維持管理すべき法面に対して、制限により発生する残壁の維持管理すべき法面が増加する場合には、残壁形成および保全工事、植栽等の経費が増となり、制限により発生する損失として補償すべきものと思考されるとともに、損失補償基準四十二条(残地等に関する工事の補償)いわゆる溝かき補償としての余地をも有している。
運搬工程
制限は、鉱区場内でのダンプ等の走行を制限するものではないが、切羽の頂上ベンチから採石投入口までの高低差が大となる事もあり、この場合、採石の単位生産量のダンプ等走行距離が増大し、燃料等経費増が生じる。また、走行距離増が著しく、処理能力を満足しないほどの損失となる場合、ダンプ等の増設も補償として検討する必要がある。
破砕選別工程
出荷工程
破砕選別工程、出荷工程については、制限による作業効率低下および経費増は発生しないものと判断される。
隣接地の取得または採石権等の権利設定の可能性の逸失は、トンネル建設事業がなかったとすれば、現在実際に操業している既成の事実、操業開始によりこれまでの地元とのつき合いの中から今後の操業継続中に隣接地を取得または権利等の設定の可能性があり、将来に渡る操業が可能である。資金調達の点からも、操業中に隣接地の取得等をくり返しながら採石採取を継続していくのが、一般的と言える。したがって、鉱区の制限によって、将来におよび採石の採取の可能性が断たれる事によるダメージは大きいと思考される。
この問題に対しては、損失補償としての認定は非常に難しい。なぜなら、隣接地の取得または権利設定の可能性、およびその予定については、時期、範囲、費用および、それに伴う収益等に関し、具体性、確実性に欠け本人の主観的な期待利益というとらえかたも出来、「将来の予定」に対する補償として、補償対象とはなりにくい内容である。
採石採取後の跡地利用の障害は、トンネル建設事業による制限がないならば、現況が採石山であるものの、将来には平地として高度利用が可能となる。
採石採取行為は一種の造成工事であり、採石採取により収益を生み出す事業であるとともに宅地造成事業ともみる事が出来なくもなく、制限によって、将来平地としての価値を生み出す事が出来なくなる損失は大であると考えられる。
確かに都市近郊における採石山にあっては、採石採取による収益は目的とせず、むしろ造成後の宅地の利用を目的としている事業も存在しているが、必ずしも全ての採石事業者に適用出来るものではなく、何十年の先に平地となる可能性に対する損失を補償の対象とする事は、前記の「将来の予定」に対する補償と同様、補償の対象とはなりにくい面を有している。

以上、採石山の補償業務として、保安距離の確定から、制限による経費増および作業効率の低下の補償の考え方に至るまでの要点を紹介しましたが、各採取事業者の諸事情等、個別的要因は大きく、また地域の特殊性等も考慮する必要があり、採石山の用地取得、権利等の制限に係る補償について一様な考え方をする事は困難であります。