鳩舎

はじめに

移転対象となった施設は、婚礼、葬儀および各種イベント等で放鳩を行う際に使用する鳩の貸し出しを営業としている施設である。公共用地の取得に伴い直接支障する施設は、事業主が居住する住宅のみであり鳩を飼育する鳩舎は、直接支障しないものである。しかし、残地内に住宅を移転させる事は残地面積から不可能であり、また鳩への給餌、給水や糞取り等、鳩舎の清掃および野犬や猫からの保護等管理上の問題から、住宅と鳩舎は密接不可分の関係にあり、住宅のみの移転は不可能である事から、住宅の移転に伴って鳩舎の関連移転が必要となり、

  • 鳩の移転の適否
  • 移転による鳩の帰巣性に伴う営業への影響

等の問題を検討したものである。

貸鳩業とは

貸鳩業は、婚礼、葬儀および各種イベント等の中のセレモニーのひとつとして放鳩する場合にその鳩を貸し出す業務を行うもので、放鳩された鳩は、鳩の本能とされる帰巣性により事業主の元にある鳩舎に戻る事により業務が成り立っている。

また、貸鳩業は業種的にも一般的な業種ではなく絶対数が少ない。そのため業態等の把握は困難であるものの、鳩自体の需要は少なく結婚式場および葬儀社に限られる事から発注者側との結びつきが強く、それぞれの地域において独占性が強い業種である。

鳩について

伝書鳩について

鳩がいわゆる伝書鳩として通信の手段として使われた歴史は古く、ヨーロッパにおいては紀元前にまでさかのぼり、日本においては江戸時代より主に軍事用として発達したものである。しかし、第一次世界大戦以降は無線通信等の通信技術の発達とともに、通信の手段としての実用性よりも、現在では長距離をいかに早く飛ばせるかを競うレース鳩として趣味やスポーツで飼育される事が多くなってきた。

帰巣性について

鳥類は、一般的に帰巣本能を持っているといわれており、特に鳩はこの帰巣性が非常に強い鳥であり、訓練を積んだ鳩であれば1,000kmも離れた場所からでも、自分の巣のある方向を判断して約18時間ほどで帰ってくるとの事である。この帰巣性については諸説あるものの、はっきりしたひとつの結論には現在においても至っていないものである。

ただ一般的に言われている事は、

  • 鳩は群棲生活を営んでおり、群の中に戻ろうとする。
  • 鳩は一夫一妻制である事から、家族のもとに帰ろうとする。
  • 鳩舎に戻れば確実に餌を得られる。
  • 自分のテリトリーを確保でき安心出来る。

等、自分の巣に戻れば安定した生活が確保出来るという巣に対する愛着心により巣に戻ると考えられており、実際につがいで放つより雌雄別々に放した方が、満腹より空腹で放した方が帰巣率が高いといわれており、またどのように離れた場所から自分の巣の方向を判定するかについても、

視力説
視力により地形を見極め帰巣するという説
往路逆行説
移動の経路を記憶する事により帰巣するという説
磁力説
地球の磁力により帰巣するという説
大気感説
大気の変化や臭いにより帰巣するという説

等の説が揚げられているものであるが、現時点においてはどの説も全面的に否定、あるいは肯定するには無理があると思われている。

鳩の生態について

鳩は制限をしなければ、1月から2月中旬を除きほぼ通年に渡り連続的に産卵するが、鳩を年間通して繁殖させていたのでは親鳩も衰弱し、無精卵や軟卵等の異常卵の確率が高くなるため、通常は年2回から3回の繁殖に制限する。1回の配合から産卵、抱卵、孵化した雛が巣立ちするまでの間を一繁殖環といい、鳩の場合その期間は約55日間である。一繁殖環は配合期、抱卵期、育雛期の3期に区分される。

配合期
通常繁殖期の始まる2月中旬まで雌雄別々に飼育していた鳩をひとつの巣房の中に番で閉じこめ交配させ産卵するまでの期間で、平均して交配後12日間で産卵する。
抱卵期
産卵した卵を雌と雄が一日中交代で暖め孵化するまでの期間で、産卵してから420時間(18日間)で孵化する。また、通常鳩は二個の卵を産卵するが、それは雌雄一羽ずつ孵化する。
育雛期
孵化した雛を巣立ちさせるまで親鳩が育てる期間で、孵化してから20日から30日で巣立ちさせる。

以後、孵化から5ヵ月もすれば雌鳩は産卵を始めるようになり、寿命は10年から15年となっている。

鳩はその成長にしたがって、雛鳩、仔鳩、若鳩、成鳩、老鳩と呼んで区別をつけており、雛鳩は孵化後3ヵ月位までのものを呼び、仔鳩は孵化後3ヵ月以降5ヵ月位で発情期に入る期間のもので、若鳩は孵化後5ヵ月から満1年目までのものを呼び、成鳩は孵化後1年を経ったものからせいぜい6歳までを言い、それ以上の鳩を老鳩と呼ぶ。

帰巣性については、鳩舎で孵化、飼育された鳩は問題なくその鳩舎を自分の巣と思いこみ帰巣するが、他の鳩舎より譲り受けた鳩については、新しい鳩舎に対して帰巣性を植え込むには、若鳩の場合には7日から10日、成鳩の場合には30日から40日、鳩によっては3ヵ月以上1年もかかる事もあるといわれている。

鳩舎の移転に伴う問題点

鳩の移転の適否
鳩の移転の適否については、通常の業務において貸し出し1件に対して1ゲージに6羽入れたものを1対、合計12羽の鳩を貸し出し、車を使用して式場まで運搬する事から、鳩はゲージの中に入る事、車で運搬される事については日常生活の一部になっており、鳩舎の移転に伴う鳩の移転に関しては何ら問題はない。
移転による鳩の帰巣性に伴う営業への影響
鳩舎の移転に伴い、新しい鳩舎に鳩が馴れるまでは放鳩しても鳩が帰巣しない事により、鳩の回収が不可能となり貸し出しが出来なくなる事から、営業に大きな影響を与える。

補償方法

上記の問題点をふまえて鳩の生態を考慮しながら補償方法を考察する。

(1)移転先の新しい鳩舎において新たに鳩を導入飼育する
卵から孵化させるにしろ、仔鳩を購入するにしろ、新しい鳩舎において飼育する事から帰巣性については問題ないものの、貸し出しが出来る成鳩になるまでには約1年かかるため、その間の営業休止が発生する。
(2)移転先の新しい鳩舎において新たに鳩を飼育すると当時に、従前の鳩舎の鳩を使用して営業を継続させる
新しい鳩舎の鳩で営業が出来るようになるまで、従前の鳩舎の鳩で営業を行うものであり、営業休止は動産の移転期間の7日程度と短くて済むものの、鳩舎が2カ所になる事から、新しい鳩舎での営業が出来るまでの約1年間の経費増が発生する。
(3)従前の鳩舎の鳩を新しい鳩舎に移転させ、新しい鳩舎に対する帰巣性が発生するまで飼育する
鳩を移転させること自体には問題がない事から、現在飼育している鳩を新しい鳩舎に移転させ、帰巣性が発生するまで飼育し、新しい鳩舎に戻る事が確認されてから営業を再開する。営業休止期間は、鳩の生態で述べたように30日間から40日間である。

以上の3つの方法が考えられ、それぞれ比較するに(2)の新旧の鳩舎を併用する方法は、営業休止期間は短くなるものの生物を対象としている事から住宅と鳩舎の分離は管理上不可能であり、採用可能な移転方法とは言い難く、(1)新しい鳩舎で新たな鳩を飼育する、(3)現在飼育している鳩を新しい鳩舎に移転させる方法の比較になるものであるが、成鳩の移転に伴う帰巣性についても、新しい鳩舎において飼育すれば、時間の経過とともに前の鳩舎の記憶が薄れ、新しい鳩舎の記憶が強くなるため、従前と同じ営業が可能である事から、営業休止期間の短い(3)の方法を採用する。