公共用地の取得により対象寺院の施設一部が支障する。
対象の寺院は用地取得のための物件調査の1年半前、火災により本堂及び庫裡が焼失している。仮本堂及びプレハブ建物を住職の仮住まいとし、寺としての機能は持続させている。
そして物件の調査時点には、新たな本堂及び庫裡建設のための建築確認申請が受理され、建築工事請負契約も締結し、建築着工直前の時点にある。
このまま再建計画が進む事になれば、再建した後に新品建物の移転補償問題が発生する事となり、
等の問題が生ずることは明らかであるため、本堂及び庫裡の建築着工に至るまでの間に合理的な補償方法等を究明し、補償を実施する事が急務と判断された。
そのため補償調査にあたっては、
等の検討を行った。
対象は禅宗の寺院である。禅宗の教えは坐禅であるとし、坐禅こそが仏教であり、坐禅に始まり坐禅に納まると解いた。
そのため禅宗では伽藍建築は修行道場の場でもあるとし、寺院構成は、
の7堂伽藍が基本型であり、そしてこの7堂の他に関連するいくつかの建設が併設されている。小さな寺院では7堂を簡略化して本堂・庫裡等これらの建物が一棟でまとめられている寺もある。また、鐘桜などという型に変容したり、山門もそれを表す標識だけとなっている場合もある。
山門、仏殿、法堂はこの順序で正面中央に一直線にならび、向かって右に庫裡、その手前に浴室、向かって左に僧堂、その手前に東司が配置され、これらの建物は回廊で全てつながっており、修業の場としてひとつの回廊をなしている。
このうち火災焼失した建物は仏殿・法殿・庫院であり、その他の建物は火災から免れている。
調査時点では、本堂及び庫裡が焼失しており、本来の寺院としての機能は有してなく、臨時応急、緊急避難的状況下である。
そのため、
の状況を早急に回避すべく再建計画がたてられている。
本堂及び庫裡の存在しない寺院は寺としての機能を有しておらず、400年の歴史ある県下の禅宗寺院のうち、寺格の高い対象の寺にあっては本来のあるべき姿ではない。
ご本尊をまつり、朝・昼・晩のおつとめ及び各種の法要儀礼を行うべき本堂については、現在仏心堂を仮本堂として使用している。また、庫裡の機能のうち、住職の生活の場については、火災前の建物と比較して著しく狭小なプレハブ仮住居を余儀なくされている。
したがって、本堂、庫裡のない状態は過去から将来に渡って一時的しかも緊急避難時の状態のものであって、対象の寺を把握する場合、焼失しているとはいえ本堂及び庫裡の存在を無視する事は妥当でないものと考察する。本堂・庫裡の存在を前提に補償方法を検討する必要がある。
焼失した本堂・庫裡に対する既存の建築計画は、
等の寺院建築様式に沿った再建計画となっている。この計画のまま施設が建築されるとなると庫裡が公共事業による用地買収に支障をきたす結果となる。
この再建計画がこのまま進行したとすると、本堂、庫裡の完成予定を待たずして、あるいは完成後間もなく公共事業に伴う移転を余儀なくされる結果となり、今後何百年にも継承すべき寺院建物を取り毀す結果となり、これは対象寺、檀家及び関係者に対しても、また社会経済性からも妥当な措置とは到底言い難いものと判断する。
調査時点では、本堂及び庫裡は焼失しており存在していない。
存在しない施設についての補償上の取り扱いについて、現存しない施設に対する移転料を補償しないことは当然の事ながら、その施設の存在を前提に移転工法等を検討すべきか否かは、対象の機能、すなわち寺として機能するに必要不可欠な施設(本堂、庫裡)であるかの判断及び施設の建設計画の確実性の判断等が重要と考える。
移転補償について、補償とは財産価値の損失の補填であり、被補償者からすれば、地上物件は貴重な財産で、特に建物は生活と生産の基盤であり、生活と活動を継続するに不可欠なものであり、移転にあたっては従前使用していた目的に供し得る、従前と同様の効用を有するまでに回復する費用であるとされる。
また、財産価値の損失は、
の三者に分類されるものと考察する。
以上、損失の基本的な考え方の下、焼失した本堂及び庫裡の補償上の取り扱い及び対象寺の補償方法について検討する。
焼失して存在しない本堂・庫裡に対して移転を想定し、その移転料を補償する事は当然否定すべきものである。本来寺院施設として不可欠な本堂・庫裡が存在しなくともそれは緊急避難的、一時的な状況下のものであって、現在の状況であっても当然ながら対象が寺院であるとの認定は相当であると判断する。
すなわち、寺院に当然存在すべき本堂・庫裡について、焼失前の位置・規模で存在している事を想定して残地内での配置計画等の移転方法を検討する事が必要である。
焼失前の位置・規模で存在している事を前提として移転方法を検討する事が、従前の寺院の尊厳性及び生活と活動を維持回復する事となるものと判断する。
本堂・庫裡が焼失している状態は、仮本堂と住職の仮設住宅及び家族の別居等、寺院として正常な姿ではなく、檀家及び対象寺の関係者はこの状態を一日も早く回避すべく、火災後直ちに再建計画の検討がなされ、建築確認を受け、その後直ちに建築に着工せんとしている。
この再建計画が近い将来確実に実施されるものであって、焼失前と比較し規模縮少となるとはいえ、この計画が実施されたとしても寺としての尊厳性及び機能に著しい低下を招来するものではない事が推定される。
したがって、焼失前規模の本堂・庫裡に回復させる移転方法ではなく、縮少した再建計画を前提として移転工法を検討する事によって、従前の寺院尊厳性及び生活と活動の維持回復が可能であるものと考慮する。
