私が測量という仕事を始めた頃は、スチールテープを引っ張り、トランシットのバーニアで角度を読取り、真空管のコンピュータで計算をし、手作業でトラバーをプロットした原図を持って平板にアリダードで平板測量をしていた。何もかもが手作業の連続であった。
その後汎用型の光波測距儀が現れ、パソコンが一般的に使われるようになり、電子野帳が出来て、さらには電子平板が開発されました。現在の測量機器の進歩はめざましいものがある。そんな便利な道具のおかげで、今では機器の扱い方さえ覚えてしまえば、一通りの作業がボタンやキー操作だけで全て出来てしまう。そしてこの段階での測量作業の能力の差は、速いか遅いかといったくらいの違いでしか現れない。しかし能力の差とは、いざこれらの便利な道具が使用不能になった時に、作業が出来るか出来ないかで大きな違いが現れる。これは測量に限った事ではないが、経験した事がない事態に直面した時にでも柔軟に対処して乗り切れるかどうかである。
この違いはどこからくるのか。それは、道具を使っているのか使われてしまっているのかの違いである。要はマニュアルに忠実にやっているのか、マニュアルをはずれても状況に応じて考えながらやっているのかの違いである。1人で20個のハンバーガーを注文した客に「店内でお召し上がりですか?お持ち帰りですか?」とマニュアルどおりの対応をする店員と根は同じである。
測量部では、新人にはしばらくの間は電卓を使わせて手計算などの基本的な方法を一通りは教えるのだが、実際の作業の中で使わなければすぐ忘れてしまい、楽な方法に順応してしまう。そうなると、考えて行動する習慣のある者とそうでない者との差は開く一方である。